昔は、例えばアメリカを中心とした「運動と健康にかんする声明」では、結構厳しめの推奨量を示していました。かつては生活の行動を変えようというところまでは十分に考えられていませんでした。スポーツ科学や医学の専門家によって、病院に来た方々を特別な運動の施設で指導し、そうした恵まれた環境でトレーニングをした方々の研究知見がメインで蓄積されていきました。いわば、スパルタ的な推奨内容になっていて、これは世界的に共通しています。
しかし、こんなハードルの高い事を言っても人々は動かないということが世界中で分かってきました。いろいろな研究知見がどんどん蓄積されているのに、例えば、日本の歩数は減ってきているままです。これは何かを変えていかなければいけないのではないか?とはいえ、低い強度と高い強度がそれぞれあって、例えば普通に歩くのとジョギングするのでは全然違うわけです。エネルギーの消費も違うし、筋肉もジョギングのほうが動かすことになります。もちろん強度の高い物をすればするほど健康上のさまざまな効果、例えば心臓への効果、脂肪燃焼、筋肉・骨への刺激と言った効果は高くなります。それらの観点から、強度の高いものができればよりよいことは間違いありません。
ただし、もう一つ注意するべきなのは、強度が強いものほど怪我をするリスクがありますし、運動量が多ければ多い人ほど怪我をするリスクが高まるのは変えられない事実です。
1日1万歩は歩かないといけない。ウソかホントか?[1日1万歩歩かないといけない」という書き方で言うとウソになります。これはなぜかというと、まず前提として、運動はごくわずかな量でもやらないよりは非常にいい。例えば、家にじっと閉じこもりがち、あるいはデスクワークばかりで全然体を動かさないと言う方がちょっとでも動くようになるだけで様々な疾患、病気のリスクは大きく下がることが分かっています。運動をするかしないかで大きな違いがまず生まれるということです。
次に、どんどん体を動かす量が増えていけばいくほど、例えば寿命、長生きにつながることが分かっています。ただし、平均歩数と寿命(死亡リスク)の関係を示したグラフによると、右に行けば行くほど1日の平均歩数の多い方、下に行けば行くほど長生きと言う事をしめしています。歩数が多い人ほどどんどん長生きになっていくのですが、あるところであまりその違いは見られなくなります。このグラフで1日1万歩に行く手前のカーブを見ると7500歩ほどで、もう既に変わらないくらいに線が水平になっています。要するにこれ以上は1日1万歩歩いても歩かなくても、寿命はそれ以上あまり変わらないと言う結果が出てきました。(高橋)