HIV感染患者さんの口腔症状と歯科治療についての説明がありました。
HIV-RNA量とⅭⅮ4陽性Tリンパ球数は免疫状態の指標となり、正常値:700~1300個/㎣で、200個/㎣以下のとき免疫不全とされ、抗レトロウィルス療法(ART)の適応となることがおおいです。ⅭⅮ4数200の壁と言われます。ⅭⅮ4陽性Tリンパ球数と検査日(最初のⅭⅮ4数、一番低下した数値、一番最近の数値)は、HIV感染症の進展の 病期、病勢と進展に伴う病気の種類を予測することができ、そしてどの程度に免疫機能が障害されているかも知る事が出来ます。ⅭⅮ4陽性Tリンパ球数が200/ul以上であればほとんどの歯科治療は患者さんに危険を及ぼすことはありません。しかし、好中球数が500/ul以下の場合には、歯科治療時に抗菌薬の予防投与が必要となることがあります。そのため、現在の患者さんの状態(最近のⅭⅮ4陽性(T)リンパ球、ウイルス量、内服薬、現在の健康状態など)を知る事は重要です。
一般歯科の実際は、ⅭⅮ4リンパ球数200/ul以上で一般歯科治療処置可能、好中球数500/ul以下で抗菌剤の予防投与、血小板数500,000/ul以上で安全、プロトロンビン時間(RT)2倍以下、PT/INR(国際標準化)1,5以下、Hb量7,0g/dl以上、ⅭⅮ4リンパ球数だけでの抗菌剤の予防投与は不要、血中ウィルス量だけで抗菌剤の予防投与は不要。となるとⅭⅮ4リンパ球数200未満では「一般」歯科処置はできないのか?
国立国際医療研究センターでⅭⅮ4<200147症例とⅭⅮ4>=200280症例との対象比較検討したそうです。抜歯予後に関しての調査では、ⅭⅮ4<200147症例中治療不全症例が4症例で、ⅭⅮ4>200280症例中治療不全症例が12症例で、結果抜歯の理由として齲蝕が最も多く、次いで慢性歯周炎、根尖性歯周炎、埋伏歯の順でした。HIV感染者の抜歯後治癒不全の発症割合は非感染者と比較してもほとんど変わらず、ⅭⅮ4数200未満群は、200以上群と比較しても、治療不全の発症割合はほとんど変わりませんでした。治療不全を起こした抜歯部位は16症例中13症例が下顎の親知らずでした。
考察としては、HIV感染者の抜歯において、ⅭⅮ4数の低下はリスク要因にならない事が示唆されました。抜歯後治癒不全を起こした部位のほとんどが下顎智歯部であったことから、侵襲の大きさがリスク因子と考えられます。関連諸科と連携し、患者さんの全身状態を十分に把握しておくことは依然として重要で、局所的な因子も踏まえ、治療方針決定にかかる判断は非感染者と同様に慎重に行うことが求められます。(高橋)